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第2回 心理療法はいかに発展し、現状はいかなる状況にあるのか。

 前回では、心理療法が発展・変容を繰り返し、いまやアメリカだけでも400にも上る学派・流派があるということを述べた。それでは、わが国はどのような状況になっているのかという点を少し詳しく述べたい(詳細は拙著「実践心理療法」金剛出版を参照いただきたい)。わが国の心理療法の歴史は世界の心理療法の歴史と連動しているので、心理療法の歴史そのものを簡単に述べつつ、わが国の現状を述べたいと思う。

 1900年代前半に確立した近代的心理療法には、フロイトの精神分析、ユングの分析心理学(本コラムでは「ユング心理学と呼ぶ」)、アドラーのアドラー心理学があった。その後、数多くの心理療法が工夫され現在に至っている。一時期、仲間であった三人がその後三人三様の考えに分離発展していったものである。(三者の生い立ちや考え方の発展などを詳細に調査したエレンバーガーの「無意識の発見」は一読されることをお勧めする。)

 実は、心理療法の歴史は、精神分析の歴史であると言っても過言ではない。つまり、心理療法の歴史とは、精神分析から新たな学派が無数に発展した歴史と言ってもよい。対人関係論学派、来談者中心療法、ゲシュタルト療法、交流分析、自己心理学、そして今流行の認知(行動)療法なども、精神分析に批判的な臨床家が自らの学派を打ち立てたものである。それぞれの創立者、サリバン・ホーナイ、ロジャース、パールズ、バーンズ、コフートそして認知療法のベックも皆、精神分析の訓練を受けて、臨床をしているうちに限界を感じて、新たな学派を創立したものである。そのため、心理療法の歴史は、精神分析の内部での発展としての自我心理学派と対象関係論学派の発展とともに、不満を感じた臨床家が分派していき、さまざまな学派が乱立していった流れであったと言ってよい。また、精神分析そのものの変容として力動精神療法(精神分析理論を背景にして実践的な治療的な面接を行う立場)への発展が見逃せない。このため、精神分析といっても、自我心理学的な立場や対象関係論的な立場などとともに、力動精神療法なども発展工夫されているとともに、個人個人も工夫しているので、非常に幅が広いものになっている。

 我が国においては、自我心理学・対象関係論に関わらず、ひたすら、精神分析の本流を歩んでおられる臨床家もいる。私自身は、セラピストがいろいろ工夫しないで、ひたすら古典的な精神分析あるいは精神分析的精神療法のアプローチをおこなう場合、治療的効果があるのは、ヒステリーとそのバリエーションともいえる不安定性人格障害(境界人格障害ともいう)だけではないかと思っている。幸いなことにわが国の精神分析家の多くは、より治療的な面接であるともいえる力動的精神療法をおこなっているので、より広範囲の方の治療が可能にはなっていると思う。この力動的精神療法の立場で治療しているセラピストはわが国にはかなりいる。そのため、かえって力動的精神療法とは何を意味するのかが曖昧になってきていることを私は危惧し始めている。それはそれでよいとも言えるのだが・・・。

 また、アドラー心理学は、一度、ほとんど消滅したがアメリカでシカゴ学派が復活を遂げて、それが現代にまで続いている。わかりやすい考えが多いので、一般書などではとても人気があるが、実際にアドラー心理学を実践している方は極めて少ない。また、精神分析から発展し、アメリカの人間性回復運動時(1960年代)に発展した交流分析、ゲシュタルトセラピーはわが国で本格的に行っている方はほとんどいない。対人関係論学派は、一時期、廃れたが、対人関係療法として復活しつつあるが、わずかな臨床家が行っている状態である。自己心理学派を標榜している臨床家はいないのではないだろうか。ロジャースの来談者中心療法のみはわが国で広く行われているが、このことについては後に触れる。

次回では、精神分析以外の学派をユング心理学などを中心に述べる予定であり、それでわが国の全体像をつかんでいただけると思う。